何ヶ月もかけてこのAIキーボードを作った私たちが、今でもこの4つの作業では標準の日本語IMやMozcに戻る理由

Eavan Tuoプロダクト・多言語ワークフローリサーチャー · UnimeType更新3分で読めます

ここ数ヶ月間、私たちは専用のローマ字・多言語変換モデルの学習から、5つの OS にまたがるテキスト選択範囲の互換性改善まで、ほぼすべての時間を UnimeType の開発に注ぎ込んできました。そのため友人からはよく「やっぱり普段打つ文字も全部 AI キーボードで変換してるの?」と聞かれます。

答えは「いいえ」です。むしろ、入力メソッド(IME)をゼロから作れば作るほど、「キーボードのツールバーが役に立つ場面」と「邪魔をせず引っ込んでいるべき場面」の境界線にはシビアになります。私たちが日常のなかで AI キーボードのアクションを使わず、迷わず別の道具に切り替える4つの場面を紹介します。

1. 純粋な日本語だけで長文を書くとき、または新幹線や飛行機でオフライン作業するとき

1つ目は、言語の切り替えが一切発生しない長文執筆です。たとえば新幹線や飛行機の機内で、日本語だけの長いエッセイや日報を何十段落も書き続けるとき、macOS 標準の日本語IM(ことえり)や Google 日本語入力(Mozc)、ATOK はすでに圧倒的に速く、完全オフラインで動き、指の記憶どおりに候補を出してくれます。また、社用端末でセキュリティポリシーによりサードパーティ製キーボードの導入自体が禁止されている場合も同様です。そこでは OS 標準の IME こそが最適解であり、無理に別のツールを挟む理由はひとつもありません。

2. 白紙の状態から5ページの設計書(Design Doc)や企画書を書き起こすとき

2つ目は、まだ「下書きの1文」すら存在しない段階です。真っ白な画面を前にして5ページの技術仕様書(Design Doc)の構成を練ったり、提案書の切り口を5パターン比較したり、複数の議事録から論点を整理したりするとき、キーボードの上にある小さなツールバーは作業場所として狭すぎます。キーボードのアクションは「すでに書いた1文に対して、範囲を限定した変換や手直しを行う」ためのものであり、ゼロから長文を組み立てる作業はフルスクリーンのエディタやチャット AI のウィンドウで行うべきです(この線引きについては1行の返信のためにChatGPTへ往復するのをやめた理由で詳しく書きました)。

3. 法務契約書、医療記録、財務・公的書類など、1語の誤りも許されない文書

3つ目は、1単語のニュアンスの違いが現実の損害につながる専門文書です。法的拘束力のある契約書、医療上の指示やカルテ、財務報告、ビザや行政手続きの公的書類、あるいは公証翻訳などは、キーボード上のワンタップ変換や推敲に頼るべきではありません。Convert、Polish、Explain はあくまで日常のチャットや業務連絡をスムーズにするための道具であり、資格を持った人間の専門家の確認を代替するものではないからです。

4. パスワード、2要素認証(2FA)コード、SSH秘密鍵、.env のシークレット

そして最後が、絶対に越えてはならないプライバシーとセキュリティの境界線です。パスワード、リカバリーフレーズ、2要素認証(2FA)のワンタイムコード、クレジットカード番号、SSH 秘密鍵、.env ファイル内の API キー、あるいは組織が承認していないエンドポイントへ送信してはならない社外秘テキストに対して、私は絶対に AI アクションを実行しません。

UnimeType では通常のタイピングはすべて端末内でローカルに処理され、ユーザーが明示的に Convert、Polish、Explain を押さない限り通信は一切発生しません(さらにパスワード欄の自動バイパスや送信前の端末側シークレットマスクも備えています。詳細はプライバシーと保護対象コンテンツを参照)。それでも、「認証情報やシークレットにはそもそも外部処理アクションを走らせない」という原則は徹底すべきです。また、一部のホストアプリで選択範囲が正しく取得できない場合も、当て推量でテキストを書き換えるくらいなら何もせず元のテキストを守る設計にしています。


こうして「AIキーボードが出るべきではない4つの場面」をすべて取り除くと、手元に残る役割はとても小さくて具体的、そして毎日確実に役立つものになります。

すでに Slack や LINE、GitHub の入力欄が開いていて、sakki staging de API no response kakunin shitakedo, timeout dake ashita mou ikkai miyou のような日英混在の連絡をサッと打ちたいとき。あるいは海外から東京に来た同僚への英語メッセージに Just take the Yamanote Line to 恵比寿駅 West Exit, we reserved a table at 焼き鳥 鳥しき around 7pm と日本の駅名や店名をそのまま混ぜたいとき。その1文の中だけでローマ字を自然な日本語に変換したり、急いで書いた英文をその場で整えたり、見慣れない英語表現の意味を返信前に確認したりする——その狭い守備範囲をきっちり守ることこそが、毎日安心して使い続けられる理由だと考えています(日常のバイリンガル入力の使い分けについてはキーボード切り替えを超えた多言語入力の考え方もあわせてご覧ください)。