会話では日英が自然に混ざるのに、なぜキーボードで打つときだけ手が止まるのか

Eavan Tuoプロダクト・多言語ワークフローリサーチャー · UnimeType更新3分で読めます

日英バイリンガルの環境で働いていると、誰もが感じる小さな違和感があります。口頭で話すときは、日本語の文に英語の技術用語を自然に混ぜたり、英語の会話の中に日本の駅名や店名をそのまま入れたりしても、思考は1秒も止まりません。ところがPCやスマホのキーボードに向かった瞬間、数語おきに「英数/かな」キーや地球儀キーを押すために指が止まり、せっかくの思考のリズムが引っかかってしまうのです。

原因は私たちの言葉の選び方ではなく、OSの入力システムが「1単語でも別の文字が混ざったら、これからしばらく別の言語で長文を書くはずだ」と決めつけていることにあります。

たとえば普段のSlackで「さっき staging の挙動を確認したんだけど、login まわりの timeout だけ明日もう一回見よう」と送りたいとき。あるいは、東京に出張してきた海外メンバーに英語で待ち合わせ場所を伝えるために Let's meet at 渋谷駅 ハチ公口 at 6pm, I booked an 居酒屋 nearby. と打つとき。口に出せば一息で言える文なのに、キーボードの上では staging や 渋谷駅 ハチ公口 の前後で何度も入力モードを往復し、全角スペースや全角記号が混ざらないよう気を遣わなければなりません。

同じ入力欄の中で起きている「3つのまったく違う作業」

「キーボードの切り替え」「翻訳」「文字変換(Convert)」はひとまとめにされがちですが、実際のチャット欄やエディタの中ではまったく別の問題を解決しています。

もし Let's meet at 渋谷駅 ハチ公口 at 6pm をそのまま翻訳ツールにかければ、駅名がすべてローマ字や英語に置き換わってしまい、現地の案内板やタクシーの運転手に見せづらくなります。逆に文の途中で従来のかな漢字変換(IME)に切り替えれば、正しい漢字は出せますが、地名1つのために入力モードを2回切り替えなければなりません。

日本語の文に英語の用語が混ざる場合(sakki staging no kyodou wo kakunin shitan dakedo, login mawari no timeout dake ashita mou ikkai miyou)も、英語の文に日本の固有名詞を入れる場合(Let's meet at shibuya eki hachikou guchi at 6pm, I booked an izakaya nearby.)も、思考の途中でIMEを切り替える代わりに、英語キーボードのままラテン文字で最後まで一気に打ち切り、最後に UnimeType の Convert を1回だけ走らせる方がずっと自然です。

デスクトップでの一括混在変換と、1つのモバイル QWERTY キーボードから中国語ピンイン・ヒンディー語 Hinglish・アラビア語 Arabizi を変換する様子

「文字変換」「推敲」「意味の確認」を混ぜない理由

下書きが入力欄に並んだあと、送信ボタンを押す前にやりたくなる小さな手直しは、文字変換だけではありません。

文字そのものはすでに正しいのに、英語や日本語の言い回しが少し固くて自然に整えたいときがあります。たとえば急いで書いた i already send the report yesterday, please check if format is ok を自然なビジネス英語に直したいときや、「昨日送ったレポートは、まだ返事が来ていないです」をスッキリした丁寧語に整えたいときは、推敲(Polish)の仕事です。あるいは、海外エンジニアから届いたメッセージに LGTM, let's punt the edge cases to Q3 のような慣用表現が含まれていて、返信する前にその場で意味だけ確かめたいときもあります。それは解説(Explain)の仕事です。

Convert、Polish、Explain をあえて3つの独立した明示的なアクションに分けているのは(各アクションの仕様はアクションを参照)、キーボードに勝手な忖度をさせないためです。ローマ字やピンインを母語の文字に変換してほしいだけのときに、AIが勝手に英語のトーンまで書き換えてしまうような事故は起きません。

それでもシステムの標準IMEを使い続ける場面

こうして役割を切り分けると、OS標準のIME(macOS 日本語IM、Google 日本語入力 / Mozc、ATOK など)が今でも最強の道具である場面もはっきり見えてきます。

最初から最後まで日本語だけで長い文章を書くとき、新幹線や飛行機の中でオフラインで作業しているとき、あるいは公的な文書で同音異義語を1語ずつ慎重に選びたいときは、迷わずシステムの標準IMEに切り替えます(AppleやGoogleの標準機能については、Appleの多言語入力ガイドやGboardの言語設定ガイドに詳しくまとまっています)。また、ネットワーク経由のアクションを備えたキーボードを使うときは、普段のタイピングと明示的なリクエストの境界を知っておくことも大切です。その仕組みはプライバシーと保護対象コンテンツおよびiOSの「フルアクセス」が実際に許可することで詳しく公開しています。

英語をベースにしたまま複数言語のメッセージをどう書き進めるかについては、1行の返信のためにChatGPTを開くのをやめた理由や私たちがAIキーボードを使わない4つの場面もあわせて読んでみてください。